事業の経過及びその成果(平成24年度・平成24年4月1日〜平成25年3月31日)
イ 事業活動の経過及びその成果
(イ)総括
当期における我が国経済を振り返ると、前半は復興需要やエコカー補助金などの政策が内需を下支えしたこともあって、緩やかに回復 しつつありましたが、半ばころから、世界景気の減速や円高の進行などを背景に、しだいに弱い動きとなりました。年度末にかけては、輸出環境の改善、金融政 策の効果や経済対策への期待感から、持ち直しの動きが見られました。
このような中、当公庫におきましては、お客さまサービスの向上、東日本大震災からの復興支援及び日本経済発展への貢献などに積極的に取り組みました。
a お客さまサービスの向上
お客さまへの丁寧な応対に加え、お客さまの抱える様々な経営課題に対応するために、経営相談や財務診断サービスなどコンサルティング機能の強化、関係団体との連携強化及び各事業本部が連携してノウハウ・情報を相互に活用することによるサービスの強化等に取り組みました。
当 期におきましては、平成24年10月に日本貿易振興機構と業務連携に関する覚書を締結し、お客さまの海外展開支援を強化しました。また、統合支店毎に「総 合力発揮推進計画」を策定し、これを積極的に推進しました。具体的には、地方公共団体が地域活性化対策として取り組んでいる地域プロジェクトに134件参 画し、うち116件の地域プロジェクトでは中小企業等への融資を実施したほか、お客さまのニーズに応じた複数事業が連携した融資を積極的に実施しました。
さ らに、アグリフードEXPOなどの全国規模の商談会のほか、全国各地で展開した支店規模の商談会等を通じてサービスを提供した結果、当期の事業間連携によ るお客さまの紹介件数は合計3,030件となり、前期の2,058件から大幅に増加しました。加えて、平成24年6月より、インターネット上でお客さま同 士のニーズを引き合わせる「インターネットビジネスマッチング」サービスを開始しました。
b 東日本大震災からの復興支援
東日本大震災により影響を受けた中小企業・小規模事業者や農林漁業者の皆さまからの融資や返済に関するご相談に対して、できる限り迅速かつきめ細かく対応するとともに、東日本大震災復興特別貸付など各種融資による復興支援に取り組みました。
こ うした取り組みの結果、東日本大震災復興特別貸付など震災関連融資の貸付実績は8,421億円となり、震災以降の融資実績は累計で3兆6,112億円とな りました。特に、被災地の復興に向けた創業ニーズに対応した支援を行った結果、被災地5県(青森、岩手、宮城、福島及び茨城県)における創業支援数は 1,266企業と震災前の平成22年度と比べ118%となりました。加えて、東日本大震災復興緊急特例による保険引受や危機対応円滑化業務を実施するな ど、政策金融機関として総力を挙げ復興支援に努めました。
c 日本経済発展への貢献
日本経済発展への貢献を念頭に、政府の成長戦略等に基づき、創業支援、農林漁業の6次産業化やベンチャー企業などの新事業支援、中小企業・小規模事業者の皆さまの海外展開支援や環境エネルギー対策支援、人・農地プランに位置付けられた中心経営体支援等を実施しました。
特に、お客さまの取り組みを一層支援するため、海外展開支援では「スタンドバイ・クレジット制度(信用状発行業務)」を、小規模事業者の皆さまの新事業及び企業再生支援では資本性ローンを開始しました。
加 えて、中小企業金融円滑化法及び同法の期限到来を踏まえ、事業再生専門部署として企業支援部を設置し経営改善計画の策定支援や企業再生貸付などを活用した 経営再建支援を実施するとともに、既往融資に係る返済条件の緩和による資金繰り支援にも積極的に対応してきました。また、年度末には全国の支店に「経営改 善・資金繰り相談窓口」を設置し、中小企業・小規模事業者の皆さまからの融資相談及び返済相談に、できる限り迅速かつきめ細かく対応しています。
(ロ)国民一般向け業務
当期の国民一般向け業務におきましては、東日本大震災の影響を受けた小規模事業者の皆さまに親身かつきめ細かく対応 するとともに、復興プロジェクト等にも積極的に参画しました。また、デフレをはじめとする厳しい経済・金融環境に置かれている小規模事業者の皆さまの資金 繰りを積極的に支援するなど、セーフティネット機能の発揮に努めました。
成長戦略分野等への対応については、創業支援の機能を強化するため、創業 セミナーの開催や全国の支店に設置した創業サポートデスクを通じて創業する皆さまの計画策定をサポートしたほか、大学・ベンチャーキャピタル等との連携及 び資本性ローンの活用によって革新的な創業者への支援に積極的に取り組みました。また、海外展開を検討する小規模事業者の皆さまに対しても、全国の支店に 設置した海外展開サポートデスクを通じて資金と情報の両面から支援を行うとともに、介護・福祉などの分野で地域の社会的課題を解決するNPO法人などの ソーシャルビジネスへの支援に力を注ぎました。加えて、家庭の経済的負担の軽減と教育の機会均等に貢献するため、教育資金の支援にも積極的に取り組みまし た。
こうした取り組みの結果、当期の国民一般向け業務における貸付実績は、2兆5,739億円となりました。
(ハ)農林水産業者向け業務
当期の農林水産業者向け業務におきましては、食料・農業・農村基本法及び食料・農業・農村基本計画、森林・林業 基本法及び森林・林業基本計画並びに水産基本法及び水産基本計画等の国の農林水産業における施策を受けて、地域・業界の実態及びお客さまのニーズを把握 し、迅速・的確に業務を遂行しました。
特に、東日本大震災への復興支援に加え、円安による飼料高騰の影響を受けた畜産業者等の皆さまへのセーフティネット機能の発揮に取り組みました。
また、人・農地プランについては、平成24年度からの制度開始に伴い、市町村と連携を密にし、お客さまの資金必要時期に資金が供給できるように取り組みました。
さらに、6次産業化への取り組みに対して、関係機関と連携し、意欲ある農林漁業者の皆さまを積極的に支援しました。
こうした取り組みの結果、当期の農林水産業者向け業務における貸付実績は、3,187億円と なりました。
(ニ)中小企業者向け融資・証券化支援保証業務
当期の中小企業者向け融資業務におきましては、東日本大震災復興特別貸付により、東日本大震災の被災地域の本格復興に向けた支援に努めたほか、セーフティネット貸付により、厳しい事業環境にある中小企業の皆さまの資金繰り支援や事業再建に積極的に取り組みました。
ま た、経済のグローバル化の進展、国内需要の頭打ち等を背景に中小企業の皆さまの海外展開が加速する中、国際業務部を設置し、海外展開資金を活用した資金支 援に注力しました。なお、当期におきましては「スタンドバイ・クレジット制度(信用状発行業務)」を創設し、バンコック銀行(タイ)、メトロポリタン銀行 (フィリピン)及び國民銀行(大韓民国)と業務提携契約を締結、現地金融機関からの資金調達ニーズへの取り組みを開始しました。
さらに、中小企業の皆さまの新たな分野へのチャレンジに対する支援を充実するため、専門部署(新事業室)を設置し、イノベーション支援に積極的に取り組みました。
加えて、新事業へのチャレンジや地域の活性化に向けた取り組みに対し、各種の特別貸付制度のほか、資本性ローンを積極的に活用して支援しました。
こうした取り組みの結果、当期の中小企業向け融資業務の貸付実績は、2兆973億円となりました。
(ホ)中小企業者向け証券化支援買取業務当期の中小企業者向け証券化支援買取業務におきましては、証券化手法を活用した民間金融機関等によ る中小企業の皆さまへの無担保資金供給の促進及び中小企業者向け貸付債権の証券化市場の育成を目的として、案件組成に向けた制度の周知及び証券化市場の情 報収集等に努めました。しかしながら、当期におきましては、ニーズが低かったこと等から案件組成には至りませんでした。
(ヘ)信用保険等業務
当期の信用保険等業務におきましては、前期に引き続き東日本大震災復興緊急特例保険を実施する等、震災により被害・影 響を受けた中小企業・小規模事業者の皆さまの資金繰りが円滑に行われるよう、的確に対応しました。また、経営安定関連保証や借換保証等に係る保険引受につ いても、厳しい経営環境にある中小企業・小規模事業者の皆さまの資金繰りに支障を来たさないよう、的確な対応を実施しました。
加えて、金融と経営支援の一体的取り組みを推進し、中小企業・小規模事業者の皆さまの経営力の強化を図ることを目的として平成24年10月に創設された経営力強化保証に係る保険引受についても的確に対応しました。
こうした取り組みの結果、当期の信用保険等業務における保険引受額は、9兆3,662億円となりました。
(ト)危機対応円滑化業務
当期の危機対応円滑化業務におきましては、主務大臣により定められた「東日本大震災に関する事案」、「災害救助法(昭和22年法律第118号)第2条の災害に関する特別相談窓口に係る事案」、「円高等対策特別相談窓口に係る事案」等への取り組みに努めました。
こうした取り組みの結果、当期の危機対応円滑化業務における実績は、指定金融機関に対する貸付けが7,337億円、指定金融機関が行う貸付け等に係る損害担保引受が1兆5,017億円、指定金融機関に対する利子補給が78億円となりました。
(チ)特定事業等促進円滑化業務
当期の特定事業促進円滑化業務におきましては、「エネルギー環境適合製品の開発及び製造を行う事業の促進に 関する法律」(平成22年法律第38号)に基づき、主務大臣が認定した特定事業を実施しようとする認定事業者に対して、指定金融機関が行う貸付けに必要な 資金の貸付けを行いました。当期の貸付実績は78億円となりました。
また、事業再構築等促進円滑化業務におきましては、「産業活力の再生及び産業 活動の革新に関する特別措置法」(平成11年法律第131号)に基づき、主務大臣が認定した事業再構築等を実施しようとする認定事業者又はその関係事業者 に対して、指定金融機関が行う貸付けに必要な資金の貸付けを行いました。当期の貸付実績は250億円となりました。
ロ 組織運営の経過及びその成果
当公庫は、「政策金融の的確な実施」及び「ガバナンスの重視」を基本理念に掲げるとともに、毎期、3ヵ年の目標である業務運営計画を策定し、これを着実に実行しています。
組織運営については、「透明性・公正性・迅速性」の高いガバナンス態勢の構築を目的とし、「意思決定」「監視機能」及び「業務執行」の3機能を分離・強化するため、BPR(注1)の手法などを用いた改革を継続して実施しています。
意 思決定・監視機能の強化については、外部有識者からなる評価・審査委員会及び人事上の重要事項を審議する人事委員会を設置しています。評価・審査委員会で は、政策目的に沿った事業が効率的に行われているかどうかという観点での業務及び運営の評価・審査並びに業務執行に責任を負う取締役の業績評価のほか、取 締役及び監査役の候補者の評価・審査を実施しています。さらに、重要事項を取締役会のほか総裁決定審議会等の会議体で審議する体制を構築するとともに、大 幅な権限委譲により意思決定を早くしています。
業務執行に係る改革については、平成25年4月の共通ERP(注2)システムの稼働を念頭に、事業サポート部門の組織の簡素化及び人員削減、また統合支店における庶務事務の統合といった業務の合理化・効率化を実施しました。
(注1)ビジネス・プロセス・リエンジニアリング:企業の業務活動を根本から考え直し、根本的革新・業務の効率化を図る経営手法
(注2)エンタープライズ・リソース・プランニング:企業全体の経営資源の有効活用の観点から統合的に管理し、経営の効率化を図るための統合型(業務横断型)パッケージソフトウェア
(イ)システム最適化計画の推進
お客さまサービスの充実、事務の合理化・効率化及び開発・運用に係るコスト削減の観点から、平成25年度以降の公庫全体のIT基盤・システムの最適化後の新システムの本格稼働に向けて、システム最適化計画を確実かつ適正に実施しています。
な お、外部委託業者の作業遅延により開発が遅れていた信用保険システム再構築プロジェクトについては、開発方式をマイグレーション方式に変更するとともに、 本番稼動時期を平成24年1月から平成26年5月に変更し、経費面での実損は発生させることなく、確実かつ適正に実施しています。
(ロ)共通ERPシステムの構築BPRによる事務の合理化・業務の効率化を実現するため、平成25年4月からの共通ERPシステムの稼働を 念頭に、システムの着実な構築及び円滑に稼働させるための操作研修を実施しました。また、各事業で異なっていた経理事務等の業務フローの統一化・効率化を 目的とした支店体制等の整備、庶務事務の標準化及び決裁ルートを含む規定・マニュアルの整備に取り組みました。
(ハ)人材開発の推進
当公庫を取り巻く業務環境の変化に迅速に対応しつつ、当公庫に対する期待に着実に応えるための体制を人材面から確保するため、新人職員から役員までの各種教育施策に取り組んでいます。
当 期におきましては、新人教育及び管理職研修を拡充するとともに、人材アカデミーの1コースとしてITアカデミーを新設し、教育体制を強化しました。これに より、人材アカデミーは、役員候補者を対象としたシニアマネジメントコース、本部部長コース及び事業統轄コース、管理職候補となる女性職員の育成を目的と したプロジェクトChallenge!!、専門人材の育成を目的とした経理アカデミー及びITアカデミーの6コースで運営しています。
(ニ)女性活躍の推進
組織としての力の最大化を目指して、女性が能力を最大限発揮できる職場を実現するため、各種取り組みを着実に実施する とともに、女性の管理職登用の数値目標(平成23年4月時点の管理職に占める女性割合1.3%を平成30年4月までに5%とする)に向けて候補者を育成し ています。
当期におきましては、地域版女性活躍推進委員会を設置している拠点支店を全国8支店から10支店に拡大し、委員会を設置していない全て の支店においても地域連絡委員を配置して、取り組みを促しました。また、転勤特例制度として結婚特例を新設するなど、女性が働きやすい職場環境の整備に努 めるとともに、女性活躍に関する取り組みや各種制度に関する情報の一元化を目的として、社内LANに「女性活躍&WLMの部屋」を開設しました。
(ホ)職場環境の向上
職員一人ひとりが、ワークとライフにおける役割責任を果たしながら、双方の充実が図れるよう、メリハリのある働き方の実践を推進しています。
具体的には、ワーク・ライフ・バランスの推進を目的としたノー残業デー週2日の促進、なかよしファミリーデー(家族の職場参観日)の支店開催、ワーク・ライフ・バランスに係るセミナー等を実施しています。
当 期におきましては、管理職と部下とのコミュニケーションギャップの解消を目的とした、コミュニケーションブックを作成しました。また、メンタルヘルス管理 体制やハラスメント対策の強化を目的とし、コンプライアンス・ヘルプライン等相談窓口の拡充、管理職と女性職員を対象に、セクハラの定義や被害にあった際 の対応方法などを解説したセクシュアル・ハラスメント解決ガイドの作成・配布を行うとともに、組織横断的な周知や外部専門家による研修等を実施しました。
(へ)リスク管理態勢及びコンプライアンス態勢の整備・強化
リスク管理態勢及びコンプライアンス態勢の整備・強化にあたっては、年度ごとに リスク管理プログラム及びコンプライアンス・プログラムをコーポレート・ガバナンス委員会での審議を経て定め、その進捗状況を定期的にコーポレート・ガバ ナンス委員会に報告することとしています。
さらに、高度なガバナンスの追求に向けて内部管理上重点的に取り組むべき分野を定め、公庫全体の経営と して把握し、又は管理すべきものをコーポレート・ガバナンス委員会で審議する態勢を構築しています。コーポレート・ガバナンス委員会においては、コーポ レート・ガバナンスに係る報告・調査・処理体制の整備や、公庫全体として統一的に対応すべき事項等について審議しました。
特に当期におきまして は、首都直下地震等、深刻な危機状況においてもお客さまに対して不断のサービス提供を行えるよう、高い耐震性を有する新本社ビルへの移転、首都圏外へのシ ステムバックアップセンターの確保、東日本大震災への対応記録の編纂及びこれらを踏まえた事業継続計画(BCP(注))の運用改正等により危機管理態勢を 充実させています。また、新型インフルエンザの流行を想定した事業継続計画(BCP)についても、全面的に見直しを行いました。
(注)ビジネス・コンティニュイティ・プラン:自然災害等の緊急事態に遭遇した場合、経済的損失を最小限にとどめ、中核事業の継続あるいは早期復旧を可能とするための計画